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Channel: ACTION 日本を動かすプロジェクト|論客コラム・野村修也「野村修也のにっぽん改革プラン」
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家は設計図どおりに建つとは限らない!?-オンブズマンについて考える②- (第3回)

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 日本人は、政策論議の段階では大いに議論しますが、実行段階になると急に熱がさめてしまう傾向があると思いませんか。家の建築になぞらえて言うと、設計の段階では「ああでもない、こうでもない」と盛んに議論しますが、いざ家を建てる段階になると急に関心が薄れてしまいます。  「郵政民営化」を例にとってみると分かりやすいかも知れません。郵政公社を民営化すべきか否かが論じられていた段階では、あれだけ議論が盛り上がったにもかかわらず、現に行われている民営化のプロセス(郵政公社は、昨年10月に民営化されましたが、正確に言えば、今後10年間をかけて行われる「完全」民営化へのプロセスのスタートが切られたに過ぎません)には、ほとんど関心は寄せられていません。現在私は、郵政民営化委員会の一員としてこのプロセスを監視していますが、頻繁に会議が開かれているにもかかわらず、最近ではニュースにすらなりません。  別に、注目されないからと言って、すねているわけではないんです(笑)。私が心配しているのは、「家は設計図どおりに建つとは限らない」ということを身にしみて感じているからなんです。政策論議が設計図作りだとすれば、それに基づいて法律を作るのが家の建築に当たります。さらに、その法律を実際に適用しながら制度を運用するのは、建てた家で暮らす場面になぞらえることができるでしょう。  元総務大臣の竹中平蔵氏は、「官僚が復権し詳細な部分で改革が骨抜きになっている」例として、「社会保険庁改革で強制徴収を国税庁に『移管』する方向で話が進んでいたはずが、急に『委託』という言葉にすり替わった」ケースをあげています。なぜなら、「権限委譲を伴う『移管』とそうでない『委託』では本質的に異なる」のであって、「委託の場合、それを実施するかどうかも社会保険庁の判断に委ねられる」からです。つまり、「このわずかな言葉の差し替えで、残念ながら社保庁の六分割案は画竜点睛(がりょうてんせい)を欠くものになった」と指摘してされています(日経2007年1月5日朝刊参照)。要するに、いくら立派な設計図を作っても、官僚はいとも簡単に歪んだ家を建てて(法律を制定して)しまうというわけです。  仮に設計図どおりの家が建った(法律が制定された)場合でも、安心はできません。玄関から入らずに、裏口ばかりを使うような不自然な暮らしぶりがまかり通る危険性があるからです。かつて、日本テレビ系「NNNドキュメント」(2006年1月15日放送の「ニッポン貧困社会・生活保護は助けない」や2007年2月25日放送の「その先は孤独死・行き詰まる生活保護」)をきっかけに大きな社会問題となった「生活保護申請の不当拒否問題」を覚えておられる方も少なくないと思います。生活保護法では、申請は無条件で受け付けて保護の要否を審査することになっているにもかかわらず、福祉事務所が独自の解釈によって申請にハードルを設け、申請を思いとどまらせようとする運用が問題となりました。2007年7月10日には、「就職した」との虚偽報告を強いられ生活保護を打ち切られた男性が、「おにぎり食べたい」と書き残して餓死する事件が起こりましたが、これなどは記憶に新しいところです。  以上のことから、今、わが国の行政に対しては2つの観点からの監視が必要だと思われます。ひとつは、決定された政策どおりに法律を作っているかという点の監視です。そして、もうひとつは、法律を正しく運用しているかという点の監視です。  行政を監視する目的で議会の下にオンブズマンを設置する国としては、スウェーデン、デンマーク、イギリス(「議会コミッショナー」)、オーストラリア、ニュージーランド(「議会コミッショナー(オンブズマン)」)、米国ハワイ州、カナダのケベック州等、フランス(「メディアトゥール」)、オーストリア(「護民官」)、スペイン(「護民官」)などが挙げられます。組織、権限、業務などは国ごとに異なっていますが、大雑把なイメージを示すならば、①議会の改選期に合せて、②1名もしくは複数名のオンブズマンを議会が選任し、③その下に数十名のスタッフを配置します。業務としては、④国民からの行政に対する様々な疑問や苦情を受け付けたり、⑤マスコミ等の問題提起を踏まえながら、⑥必要と判断した場合には自ら調査を行ったり、⑦勧告を行うと同時に、⑧国によっては行政と国民の間に立って紛争の解決を行うといった役割を担います。諸外国における議会の関心事は、自分たちが制定した法律を行政が正しく運用しているかという点にあります。その意味で、議会型オンブズマンの制度は、議会の持つ行政に対する監視機能を民間の専門家を通じて行使する仕組みと位置づけることができます。  日本で同様の制度を創設する場合には、国政調査権、大臣責任、行政不服審査制度などとの関係を整理する必要がありますが、同じような制度を持つ国でも、すでに議会型オンブズマンを導入している国がありますので、絶対的な障害にはならないと思います。すでに金融庁や総務省に設けられている法令等遵守調査室のような仕組みを、全省庁を対象とした組織に格上げし、国会の下に置くことは決して不可能ではないでしょう。  ご質問をいただいたことをきっかけに、思いがけずオンブズマンの話題を繰り返し論ずることになりましたが、この話題は今回のコラムでひとまず終わりにさせていただき、次回からは、ACTION企画に即して意見を書かせてもらいます。長い文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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